かさぶたを剥がす、剥がさない
泥酔して顔に傷を作って以来、失恋のことで泣いてない。
情けなく思ったのだ。あの日、あんなにも泣いたことを、あんなにも酔ったことを情けなく思った。
どんなに泣いても好きだった人はわたしの前にはあらわれないし、わたしがこんなに泣いていることも知らない。
あの人がわたしのことを思い出さずに毎日楽しく過ごしているように、わたしも同じように忘れて生きているのだと思っているのだろう。きっと思い出してすらいないけど。
久しぶりにLINEした。久しぶりに会った。
不思議とわたしの心は乾いていた。かっこいいと思った。まだ好きだとも思った。だけれど、あの全力で好きだった日々が遠くなったと思った。身体中すべてがあなたを好きだという感情に占められていた日々から随分と遠くへ来たと思った。
遠くへ来たと思ったのはあなたと別れた日のあなたの部屋でも思った。
ただ好きなだけだったから、そのときはあなたの部屋にいることすらおかしい心地がした。
あなたに会うときはいつも現実味がなかった。目の前にいても、話しても、キスをしてもなにをしていても。夢の中というよりは、映画や小説の中に生きているみたいな心地だった。
どうしても好きだった。どうしても。
先のことはなにも考えられなかった。どこへ行きたいとか、なにをしたいとか。あなたといるだけでわたしはいっぱいいっぱいだった。
別れてから話したいことや行きたいところが次々と浮かんだ。
まだ好きだと思う。わたしはこの半年ですっかり人間が変わってしまった。
あなたの好きな映画を観て、あなたの好きな音楽を聴いている。今になって。
話したいこと、聞きたいことがたくさんでてきた。
でも話せない。
彼女とは別れていないだろう。彼女と付き合いながら他の女の子とも遊んでいるんだろう。
また秋が来た。わたしはまた同じ人に恋をしそうだ。本当に嫌だ。